69. もうひとつの四合渕

 

さて、『四合渕』の話の続きです。

前回の南国市バージョンは、百姓家のお嫁さんの悲しい物語でした。

ご興味ございましたら→コチラ

これが山続きの土佐山村に伝わったとき、少し味付けが変わってきます────


四合渕


昔、高知から本山へぬける街道筋の遠郷という部落に、一軒の宿屋がありました。

その家の息子にお嫁さんがやってきました。

「お客がどれくらい来ても、ご飯は四合しか炊かれんぜよ。」

お姑さんからの言いつけを守って、お嫁さんは四合できちんと賄っていました。

ところがある日、お客さんが満員になりました。

困ったお嫁さんは、四合では足りないと五合のご飯を炊いたのです。

ここまでは百姓家と宿屋の違いだけで、南国市の話と流れは同じです。




ここからです。

五合のご飯を炊いたとたん、白髪のお婆さんがスッと飛んで行きました。

それからというもの、ご飯はいくら炊いても足らなくなり、お嫁さんは言いつけに背いたことを苦にして下の渕に飯釜をかぶって身投げしたのだそうです。

今にこの渕を『四合渕』、宿屋のあったところを『四合屋敷』と伝えているということです。




・・・・お婆さん?

そう、土佐山村バージョンでは謎のお婆さんが登場するんです。

変わったのはそこだけと言ってもいいくらい。



気になるお婆さんの正体は、なんと山姥

四合では足りなくなったのは山姥がいなくなったからなのです。




土佐山村の特別な方言に『山姥がつく』というのがあるそうです。

思いがけず豊作が続いたり、幸運が重なったり、目に見えて家運が上がって栄えることをいうのだそう。

福の神系?




例えばリンさんという人は、山仕事をしながら「今晩もちが食いたいなあ」と思いながら帰ってみたら、もちが出てきました。

それからは、何か欲しいと思ったら必ず家にできていました。

リンさんの暮らしは豊かになっていきました。

こうなると気になるのが人というもの。

ある日リンさんは早めに家に帰り障子の隙間から覗くと、見たこともないお婆さんが掃除をしていました。

リンさんが「エヘン」と咳払いをすると、お婆さんは障子の穴から天空へ飛び去っていきました。

そして、リンさんの暮らしは普通に戻りましたとさ。




これ食べたいと思ったら出てくるなんて、夢のよう!

うらやましいったらないです。

掃除もしてくれるんですよ。

好奇心出しちゃダメダメ。

ああ、もったいない。




この話、心の美しいお逹さんのバージョンもあります。

お達さんは、山姥様のお恵みだと素直に受けて感謝しながら一生を終えたそうですよ。

お達先輩、見習いたいものです!




別の話。

土佐山村桑尾にある山姥の滝、その近くにひえ畑を持っていた男の人がいました。

このひえ畑が豊作続きで、刈っても刈ってもすぐに穂が出てきます。

家運もどんどん上がっていきます。

持ち主は、その不思議さを恐れて火をつけたところ、畑の中から山姥と思われるお婆さんが半焼けになりながら滝の上の方に飛んで行きました。

それから、その持ち主は目に見えて落ちぶれはじめ、家も畑もなくなったということです。




と、こんな話がいくつもありまして、これが『山姥がつく』ということなのだそうです。

だから四合渕の話も、「ああそれは山姥の仕業やねえ」となったのではないでしょうか。




小さなコミュニティの中で不幸な出来事が起こったとき、物の怪のせいにする事で収まる案件もあったんだろうと思うことがあります。

残された家族もしくは本人も、そこで暮らしていくわけですから。




ところ変われば伝説も変わる。

山姥ついてくれないかしら。

決して覗いたり焼いたりしませんから~




地図を作りました! →→→ とさみみマップ

ブログに出てきた場所を紹介しています。

よかったら見てみてくださいね。




参考文献 : 桂井和雄さん著『土佐の傳説』、土佐山村史


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