115. 魚の精、人に恋をするの巻

 

『(ひざが)死ぬまでに見たい絶景』の回でお邪魔した土佐清水市。

用事ができたので、2ヶ月ぶりのリターンズ。

土佐清水は、ユニークな風景がいくつもあるので見応えがあるんですよ。

ただ、ざまに遠いがやけん(←土佐清水の方も使う幡多弁。すごく遠いの意)




高知市から土佐清水市中心部まで、およそ2時間半。

今回訪れた竜串は、そこからもう30分ほどかかります。

移動で3時間はもったいないなんて言わず・・・

同じくらいの時間で渋谷まで行けちゃうとか言わず・・・

この風景を見てほしいなあ。


奇岩の向こうに海底館


まずは竜串のおすすめから。

2020年にリニューアルした「SATOUMI水族館」。

竜串湾の多様な生物たちが見られます。

その近くにある「海底館」は、潜らずに海の中が見られる施設。

ポップで面白い形の外観は、唯一無二です。

船から海の中を見て楽しめるグラスボートや、snow peakのキャンプ場もあります。

でも、やはり主役は奇岩。


まさに奇岩


竜串海岸の遊歩道は冒険コースです。

不思議な形の岩が次々出てくるので、つい先へ進んでしまいます。


だいぶ満ち潮


小学生くらいのお子さんがワクワクしそうな、道なき道です。


竜串海岸の冒険コース


見残し海岸はグラスボートで渡るそう。

弘法大師も見残してしまった逸話からつけられた名前だといわれています。




さて、そんな竜串にも伝説があるのです。




昔、竜串に鯛舞兵助(たいまいひょうすけ)という若侍がやってきて、大ウバメガシの木のそばに仮小屋を建てて住んでいました。

兵助さん、なかなかに豪勇のお方で、天狗と勝負をしたとか怨霊を退散させたなどの噂もあったようです。

いつしか村人からも慕われるようになったそう。




ある年の雨風のはげしい夜、美しい巡礼の娘さんが、道に迷って困っているので一晩泊めてほしいとやってきました。

断っても、雨で疲れて歩けないと言うので、仕方なく泊めました。




ところが、2日たっても3日たっても旅立っていかず、一人暮らしで不自由しているところを助けてくれるので、いつしか夫婦になりました。

この娘さん、名前は「ののえ」さんといい、優しく働き者でした。

あるとき兵助が、「魚が食いたいけん、明日は魚を釣りに行ってくるけん」と言って、朝起きて外へ出てみると、軒に活きの良い魚がぶら下がっていました。

米びつの米がなくなったと思うころにいつの間にか増えていたり、不思議な出来事に最初は気味悪がっていた兵助もだんだん慣れていきました。




あるとき、山歩きをしていた兵助は、見事な鹿の角を拾いました。

軒の木が朽ちていたので、ちょうどいいと角を代わりにして直しました。

その日から、魚が来なくなったのです。

明るかったののえさんも暗く沈み、顔は青ざめ体はやせ細ってとうとう床に伏すようになりました。




ある朝、兵助は夢うつつにののえさんの声を聞きました。

「実は私は見残湾の魚の精です。

あなたの男らしい姿のひかれてお側にお仕えしておりましたが、鹿の角の毒気の当てられここにおることができなくなりました。

これにてお別れです。

幸せにお暮らしください。」

ハッと兵助は目を覚まし、浜へ出てみると、布をしいたように白く光る水面をののえさんが走り去っていくのが見えましたとさ。




竜串の民家の間に、小さな祠が残っています。

本には「鯛舞兵助の祠」で、災厄除去にご利益があると紹介されています。


布碆さん


近所の方に、扉を開けて拝んでいいですよと言ってもらったので、失礼してオープン。

竜串海岸カラー(キャラメルラテのような色合いといいますか)の石が鎮座されてました。

この辺りでは「ぬのはえさん」と呼んでいるとその方が教えてくれました。

布碆さん、と書くそうです。

そして、大漁祈願をするのだそうです。

なかなかたくさん釣らせていただいてるらしいですわよ!


布碆さん


鹿の角は、河童の一種である猿猴(えんこう)も嫌うらしいです。

なので、鹿の角を輪切りにしてひもに通し水難よけのおまじないにする風習が、高知県下各地であったそうですよ。

兵助さんもびっくり、まさか鹿の角にそんな力があるとは。

水難よけなら釣りに行くときに付けてほしいけど、魚が嫌うなら考えものですね。




ののえさんの去った竜串の海は、今日も美しかったです。


竜串海岸の夕暮れ



参考文献 : 市原麟一郎さん著『土佐のごりやくさん』、桂井和雄さん著『土佐の傳説』『俗信の民俗』


マップにないので画像でどうぞ


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