33. 長い襟足は、おまじない?

 

見かけると、妙に気になる髪型があります。

襟足の部分が長い、あの髪型です。
調べてみると、『マレットヘア』という名前なんですね。
「世界一ダサい髪型」なんて、ありがたくない称号をもらっているみたいです。
最近、おしゃれな感じで復活しているとか。



小さい男の子が時々やってる『マレットヘア』。
昭和生まれにとっては、兵藤ゆきさんが印象にあるのでは。
サッカーのネイマールも、後ろ髪長い時期がありましたよね。
プロレスラーやボクサーなど、戦うスポーツの人もぼんやり浮かびます。




桂井和雄さんの『生と死と雨だれ落ち』という本を読んでいたら、こんな文章を見つけました。


「幡多郡大月町古満目(こばめ)という浦では、産まれた子の百日目の髪の毛のおろし初めに、うなじの髪を残すのを魚食い髪(いおくいがみ)といい、これを残しておくとオブがたまげないという」

※たまげる=びっくりする



おお、『マレットヘア』のことかしら?
うなじを残す髪型、それっぽい。
にしても、オブ・・・・?



オブというのはオボやウブとも言い、魂に近い意味だと思われます。
高知県各地で使われていた言葉のようです。
母(76歳)の祖母が、赤ちゃんや子供の背中などを撫でたり叩いたりしながら「オブイレオブイレ」と言っていたのを覚えているそうです。
つまり、まだ70年前には残っていたのでしょう。




びっくりすると、オブは抜けてしまうらしいです。
子供と老人は抜けやすいのだそう。
幼児の体の具合が悪かったり、気を失ったりしてもオブは抜ける。
そんな時は、「オブイレオブイレ」などのおまじないを唱える・・・
などなど、各地で色々言われていたみたいですね。




『魚食い髪』にしておくとオブがびっくりしない、ということは髪に守られるということ。
つまり、オブはこの辺りにあるのでしょうか。






江戸時代の男の子の髪型に『盆の窪(ぼんのくぼ)』というのがあります。


「まず、赤ん坊が生まれると7日目に頭を剃った。
百会といって頭の中央だけ髪を残して剃るが、これを『芥子(けし)』または『芥子坊主』といった。
ときには後頭部の盆の窪あたりの産毛を残して剃り、これを『盆の窪』といった。
少し月日が経つと芥子も剃り、その代わりに両耳の上と後頭部だけ生やす。これを『奴(やっこ)』といった。」

笹間良彦さんの『大江戸復元図鑑』より



個性的だと言われるマレットヘアもびっくりな髪型ばかり。
でも、赤ちゃんがやると可愛らしいかもしれませんね。




坂本正夫さん・高木啓夫さんの『日本の民俗 高知』には、こんな一節も。


「生後まもなく髪を剃るが、後頭部の盆の窪だけ残しておくと溺れた時などに、オブノカミがこの髪を掴んで引き上げてくれるという」


今のようにフェンスなどもなく、草もたくさん生えていた時代、水の事故も多かったでしょう。
もちろん現代だって水の事故は怖いです。
おまじないに頼る気持ち、分かります。
どんなユニークな髪型でも・・・

・・・ん?オブノカミですと。
おお、神様までいるんですね。
オブ、深すぎる。



『魚食い髪』が『マレットヘア』なのかは謎です。
でも、『魚食い髪』も『盆の窪』も、襟足が長めのよう。

現在『マレットヘア』にその意味はないと思います。

しかし、子供の成長を願うおまじないを受け継いだ髪型なのかもしれませんね。

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