38. 名前がありすぎるカエルの話

 ヒキガエル、またの名をガマガエル、またの名をヤドモリ、またの名をオンビキ、またの名をクツヒキ、またの名をゴトンビキ、またの名をオンビキタロ・・・・



こんなに色んな名前を持つ生き物、あんまりいないですよね。
高知県内だけでも、まだまだ沢山の呼び名を持っているらしいです。
しかも、親しみのこもった呼び方も多いんですよ。
『ゴトサン』とか『オクツ』とか。
うわっ気持ち悪いってニュアンスは感じません。



ヒキガエル、少し前までは身近な信仰対象だったそうです。
最近では、姿を見ることもまれです。
まあまあの田舎に住んでるのどQも、一回も見たことがありません。



ヒキガエルって、家の床下に住み着くことがあるのだそうです。
そして、ノソノソと庭に出てくる・・・気持ち悪いような、かわいいような。
床下にヒキガエルがいるのは、縁起が良いと言われていたらしいです。
地震や台風も多い高知県。
ヒキガエルが、床下で大黒柱を抱いて守ってくれている、と言い伝えられている地域も多かったようです。
どっしりしたイメージがあるのでしょうか。




「この生き物が出入りするような家でなければ、金は入ってこない」
香我美(かがみ)町徳王子(とくおうじ)では、ここまで言われていたんですって。
守ってくれて金運もアップ、良いことづくめ。
こんなところから、陶器製のヒキガエルを庭に飾ったりもあったようです。
確かに、庭に陶器のカエルがあるの見たことあるかも。
『(お金やお客さんが)帰ってくる』という語呂合わせだと思っていたのですが、それだけではないのかもしれませんね。




縁起物で大切に扱いたいものには、やはり禁忌も出てきます。
「いたずらしたり石を投げたりすると、イボができる。」
この伝承は、高知県下各地にあったようです。
あの頃のいたずらっ子は、容赦なさそうですからね。
しっかり脅しておかないと 笑




幡多郡十和(とおわ)村には、ヒキガエルがもとでイボができてしまった時のおまじないがあったようです。
「イボの部分にヒキガエルの背中をこすりつけながら、『ヤドンビキ、ヤドンビキ、イボなおしておくれ』と唱える。
いや、無理でしょ、ヒキガエルの背中こすりつけるとか。

昔のおじいさんおばあさんって、小さい子にこんなおまじない平気でしてきそうなところがありました。
いやはや、トラウマレベル。




ヒキガエルを縁起物としていたのは、いつの頃なのか。

今の80代より上くらいになるのかしら。
70代くらいになってくると、少し話が変わってくるんです。
知っていたり知らなかったり、この言い伝えが消えていく転換期だったのでしょうか。



宿毛市に住む実家の母(75歳)の話では、長い間床下にオンビキさんがいたそうです。
いつの間にかいなくなった、と。
やはり、縁起が良いと聞かされていたそうですよ。




しかし、高知市ではトノサマガエルのことを『ヒキガエル』と呼んでいたみたいです。
で、ヒキガエルのことを『ガマガエル』と呼び、触るとイボができると言われていたそうです。

何人かが言っていたので、高知市のスタンダードだったのでしょうか。
それにしても、こんがらがります。



今の50代くらいになると、トノサマガエルはちゃんとトノサマガエルと呼ばれていました。
そしてイボができるのは、ヒキガエルではなくツチガエルと言われるように。
もっと小さい茶色いカエルですね。

カエルとイボは、セットになってしまっているんでしょうか。
そういえば、『おみろくさま』もカエルとイボでした。

よかったら合わせてどうぞ→『おみろくさまは、大人気』の巻




日高村の方は、ヒキガエルをクツヒキと呼んでいたと話してくれました。
「玄関に靴をいっぱいにしてたら、クツヒキに靴をとっていかれるよ」
と脅されたそうですよ。
音からのアレンジでしょうか。




そして、もうひとつ。

そのクツヒキという呼び名から生まれたのが、ヒキガエルに似た形の岩を百日咳の神とする習俗だそうです。
百日咳は、機織り機の一つ地機(じばた)の沓引き(クツヒキ)から『クツヒキたごり』と呼ばれていたようです。
そこで連想されたのが、同音のヒキガエルだったのでしょうか。
各地の岩が『オンビキ岩』『オクツ神』などと呼ばれて、子供が百日咳を患った時に信仰されていたそうです。
咳の病気は長引くし、苦しそうですものね。
今でも怖い病気です。



次回は、そんな『オンビキ岩』を訪ねてみた話です!



参考文献 : 桂井和雄さん著『生と死と雨だれ落ち』

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