60. どぶろくを巡る攻防

 

酒好きが多いと言われる高知県。

確かによく飲む人も多いですし、ビールの消費量もランキング上位です。

『どぶろく特区』もいくつかあります。




ところで、四国では時々聞く小話があります。

『もしも一万円を拾ったら』

徳島県の人は、全額貯金する。

香川県の人は、半分貯金して残りの半分で飲みに行く。

愛媛県の人は、一万円で飲みに行く。

高知県の人は、一万円にもう一万円上乗せして飲みに行く。

というもの。

この冗談を、高知県民は嬉しそうに話します。

オチの豪快さが気に入っている模様。




さて、どぶろく。

50代ののどQにとって、どぶろくはお店に売っている酒類のひとつです。

高知県三原村など『どぶろく特区』があることは知っていましたが、あまり深く考えたことはありませんでした。

なんなら、口噛み酒なのかと勘違いしていたくらい 笑




このどぶろく、何十年か前まで家庭でも作っていた、と聞いて驚きました。

お酒は決められたお店で買うものという『常識』が染み付いてしまっているんですよね。

作ってもいい時代があったことに、カルチャーショックを受けました。

作れるものは作る、当たり前の話なのに。




70代から80代の方に話を聞いたので、おそらくその方たちのお父さんお母さんが元気だった頃のお話。

戦後から高度成長期でしょうか。

骨太でガッツのある人がたくさんいた頃です。

良くも悪くも、とにかくパワフルな世代だったと記憶しています。




日本では、明治32年(1899年)に個人でお酒を作ることは禁じられました。

いわゆる酒税法です。

だから、この法律ができる前の日本は、自家醸造していたということになります。

問題は、その後。

昭和の時代にも、こっそり作っていた人がたくさんいたようなのです!




昭和24年(1949年)頃は、日当240円で清酒が400円だったそう。

なかなかの高級品。

道路が整備されてるわけでも、近所にコンビニがあるわけでもありません。

明治生まれの方たちは、当たり前のように作っていたのでノウハウはあります。

飲むのも、やめられない。

こうなると、密造という選択をするのは自然な流れですよね。




税務署だって、負けてはいません。

山奥だろうとどこであろうと、現れるのだそうです。

見つかるまいと、あの手この手で隠す庶民。

見つけてやろうと、鵜の目鷹の目で探す取り締まり方。




やはりお酒なので、においがします。

それをごまかすために、お便所のそばに隠していたという話を聞きました。

昔のお便所は、確かににおいがキツかったですけど。

逆ににおいが移りそうな・・。

口に入るものをお便所のそばに保管するなんて、切羽詰まらないとしませんよね。




肝の座った奥さまは、取り締まりの人が来た時に見せつけるように白い液体を運んでみたり。

「それは何だ?」

「米の研ぎ汁を畑にまくがや」

「見せてみろ」

もちろん、それは本当の米の研ぎ汁で。

本物のどぶろくは、しっかり隠しての目くらまし。

なかなかやりますね。




取り締まり方がお酒好きとなれば、なんとか仲良くなって、なにかの折に自家製のどぶろくをご馳走して見逃してもらおうとする作戦で頑張ってみたり。




そんな攻防の話は、ちょっと滑稽で人間味があって本当に面白い。

生き生きとしたやりとりがたまりません。




昭和40年(1965年)の広報紙に「密造酒をなくしましょう」と税務署からのお知らせが載っていました。

製造犯 懲役5年または50万円以下の罰金

所持犯 1年以下の懲役または20万円以下の罰金

思った以上に厳しい・・・

それでも法律違反をするなんて、たくましい!




宮澤賢治の短編小説『税務署長の冒険』も、そんな取り締まり方 vs 庶民の話です。

こちらでは、味噌おけの中にどぶろくを仕込んで上に板を乗せて味噌をぬっておいたり、

厩の枯れ草に隠しておいたり、本当に知恵比べ。

『税務署長の冒険』は、青空文庫でも読めます→コチラ




皆、どぶろくは美味しいと口をそろえます。

飲みやすい、だから飲み過ぎてしまうと。

高知でも、三原村をはじめ宿毛市、大豊町、本山町、奈半利町など『どぶろく特区』がいくつかあります。

高知県民は飲ませ上手が多いので、気をつけてくださいね。




大人の本気のかくれんぼにも似た、どぶろくを巡る攻防。

もう時効ですよね。

自分だったら、どこに隠したかなあ。




参考文献 /  貝原浩さん編著『諸国ドブロク宝典』

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