44. 美人はつらいよ 〜室戸岬おさご伝説〜

 私が美しすぎるせいで ─────

言った事ありません。
思ったこともありません。

そんな権利は、ありません。

どれだけ美しければ、このセリフが許されるんでしょう?

いやあ、声に出して言いたい日本語ですね。




高知県室戸市に、そんな美しすぎる娘さんの伝説が残っています。
名前は、おさごさん。

津呂(つろ)という町に住む、漁師の娘さんです。
それはそれは美人なので、毎日のようにあちこちの村から若衆が押しかけてきます。

注目を浴びる日々。
おさごさんは、身も心も疲れ果ててしまいます。



美しすぎるから、つらい目に合うのだ・・・
そう考えたおさごさんは、汚くしようと思いつきます。
顔に鍋のすすを塗ってみたり、ボロボロの服を着たり。
しかし、それくらいの事では、おさごさんの美しさは隠せません。
相変わらず、たくさんの若衆が追っかけてきます。



あまりのうとましさに、ある夜おさごさんは岬に向かいました。
岬というのは、室戸岬のことです。
そして、ビシャゴ岩と呼ばれる大きな岩にのぼり、
「これからは、私のように、つらい娘ができませんように・・・
どうぞ岬に、美人が生まれませんように・・・」

と祈ると、海に身を投げてしまったということです。





悲劇です。
モテるのがつらいなんて、相談乗ってもらえそうにないですよね。
やっかみしか生まれない。
「美人が生まれませんように」ってのも、また何か引っかかるんですが。




『世界ジオパーク』にも認定されている室戸岬周辺は、ゴツゴツした岩がたくさんあります。
約1400万年前にマグマが地層に入り込んで固まった「はんれい岩」は、丈夫で波があったっても削られにくいんだそうです。
ビシャゴ岩のように高くて面白い岩が多いので、伝説などもいろいろ残っているのだそうです。


ビシャゴ岩


不思議なことに室戸岬周辺には、美しすぎる娘さんの悲劇が他にも残っています。
津呂より北にある三津(みつ)にも、この世の人と思えぬほどの美女お市さんがいたそうです。
寂しい山道を一人で歩いているときに、お侍さんと出会います。
お侍さんは、欲望に負け襲い掛かり、果てにお市さんを切り殺してしまいます。
「これからは、この三津坂の西東には美しい人は生まれませんように」
お市さんは、そう言い残して亡くなったと言われているそうな。




室戸岬より西の行当崎近くの新村にも、於宮という絶世の美女がいたのだとか。

気立ても良かったので、若衆がそれはそれは追いかける。
そのわずらわしさから、渕に身を投げてしまったのだそうです。
「美人はつらい。不幸せだ。
これからは、行当崎と室戸岬の間には美人は生まれないよう」
と祈ったと伝えられているそうです。




「それで岬には美人が生まれないそうじゃ」
とかで締めくくられてきたようですよ。

失礼な話ですよね、プンスカ。




余談ですが、昭和59年6月18日の高知新聞に『おさごの墓?発見』という記事がありました。
高岡地区では、古くからおさごさんのお墓があると伝えられてきたそうですが、場所がはっきりしなかったそうです。
ビシャゴ岩近くの藪の中に、小さな祠を発見したとの記事でした。
真相も藪の中かしら。
これも調べてみなくては。



それにしても、美人はつらいのかあ。
そう考えると、きれいな顔と言われるのが嫌で隠そうとしていた人、思い当たります。
目立ちたくない人にとって、注目されすぎるのは苦痛なんでしょうね。
美しいのは幸せと、勝手に思い込んでました。
幸せの基準って、人によって違うものですね。

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